犬種別商品の開発について
私達は犬の絵が描かれた陶器を商品にしています。
よく『○○(犬種)のものも作って下さい』というメールをいただきます。私達も商品にできる犬種をどんどん増やしていきたいのですが、簡単に「はい、やります」とはいきません。犬の絵を描く時、似顔絵であれば一頭のみ見て描けばそれでいいわけですが、商品となるとそうはいかないのです。人の顔が全く違うように、わんちゃんの姿もそれぞれ全く違いますが、商品にするにはその犬種の全てのわんちゃんの飼い主さんから可愛いと思っていただける絵を描けなければなりませんし、スタンダード(犬種標準)も外せません。
自分達が飼っている犬種であれば、可愛いポイントも知っていますし、形も頭にインプットされています。また、こういう仕事をしているせいか、自分の犬に流されない客観的な視点も持っておりますので、そんなに苦労しなくても描けますし、デフォルメも思いのままです。
でも、飼ったことのない犬は難しいのです。
例えば私がラブラドールレトリバーの絵を描こうとして、自分から見てどう見てもラブにしか見えなくても、ラブの飼い主さんに見せると「なんか違うわ?」となってしまう。種類によって、耳や目の付き位置、胸の張り方、毛流、骨格、それぞれのパーセンテージなど、微妙に違うので、それを押さえられないうちに適当に描くと、必ず不自然な絵になってしまいます。また、この犬種はこの動作のときに足の向きはこうならないなど、飼ってみなければわからないポイントがたくさんあるのです。絵付担当の重松は、動物を得意とするイラストレータで、よく犬雑誌にもイラストを提供しており骨格図なども頻繁に描いているのですが、その重松をもってしても商品にできる絵を描くのは難しいのです。
ですので、犬種を増やしていきたい気持ちはとてもあるのですが、なかなか遅々として進んでいきません。
しかし、自分達が好きで、「この犬種で作りたいな〜」と思うことはよくあります。ボーダーコリーのときがそうでした。
2003年のある日、Mさんという方から「ボーダーの器を作ってもらえませんか?」というメールをいただきました。ちょうどその頃「ボーダーもの、作りたいねー」とスタッフの間で話し合っていましたので、Mさんに上記のような事情を話した上で「協力をしていただけませんか?」とお願いしてみました。Mさんは快諾してくださり、一緒にボーダーコリーの絵を作ることになりました。
ボーダーらしさの特徴を教えていただいて、だいたいのポーズイメージが膨らんだところで、「一頭のわんちゃんをモデルにしてしまうと、『その子』になってしまい、『その犬種』にはなりにくいので、少しでも多くのわんちゃんを見たいのですが…」とMさんに伝えたところ、「私はボーダーのクラブ員で、毎週メンバーが広場に集まって練習しているので、見に来ませんか?」と、とてもありがたいご提案。早速カメラとスケッチブックを持って、その広場に出かけました。そこには5家族程のボーダーオーナーのかたがたが集まっておられ、フリスビーやお話をしておられました。ほとんどの方が多頭飼いでしたので、ボーダーコリーは10頭以上いました。
広場に出かける前に、まず自分達が雑誌やネットの写真を元に下絵(※1)を描いておいたので、それをみなさんに見ていただきました。自分達はボーダーの絵を描いたつもりだったのですが、みなさんは「ん〜、可愛いんだけどぉ…」と微妙な表情。何かが違うのは歴然でした。でも、どこかどう違うのか、みなさんにもすぐには分からなかったようです。
でも、絵について話しているうちに、これは耳と足だけちょっと直せば良い、これは顔が違う、こんなポーズはしない、これは全くボーダーじゃない、など問題点が少しずつ分かってきました。そこで、直しの簡単そうなものからすすめることにしました。
後ろ向きで座っているものや、普通に歩いているもの、正面を向いているものなどは観察しているうちに何とかできました。狙っているポーズは、オーナーさん達が実際にそのポーズをさせて見せてくださり、何となくつかめるようになってきました。
ところが走っているポーズとフリスビーキャッチしているポーズは動きが早すぎて、目がついていきません。カメラで追い掛けることすらできません。一頭のわんちゃんが疲れたら次の子、という具合に何度も何度もトライしていただき、ようやく数枚の写真が撮れました。
それを元にラフスケッチをして、その場でみなさんに見ていただき、その日は帰りました。
そのラフを元に、家に帰ってからデータ作り。それができたときには私達はもう、ほとんどできたつもりでいましたが、Mさんにデータを送ると、「やっぱりちょっと違う…」というお返事。どうやら狙っているものの前足が違うらしいのです。
そこで、ネットでボーダーの写真を片っ端から見て、前足の形を研究しました。すると、走っているものの前足も何となく違うような気がしてきました。写真だけでは埒があかなくなり、もう一度広場にお邪魔させていただき、狙ったり走ったりしているときの前足のみを重点的に観察およびスケッチさせていただきました。
ボーダーの足は普段はふさふさの毛に隠れていてそれほど長く見えないけど、ポーズによってや毛がなびいた時には、本来のすらりとした細長い足が現われることが分かりました。また、走っている時に前足が関節で曲がらないことも分かりました。(他の犬は曲がります)
もう一度データを作り直し、最終的にスタンダードブックと照らし合わせて微調整し、MさんのOKをいただきました。(※2)
それからは絵付けの練習です。ボーダーの毛は黒いので、その黒い毛の雰囲気が表現できなければなりません。何度もテストピースを作って、何度も失敗して、ようやくMさんにお見せできるくらいになりました。ボーダーのイベントにも参加してみなさんに見ていただいたところ、まずまずの反響。
これで大丈夫だ、と確信して、ネットでも発表しました。ボーダーの絵に取りかかってから、半年経っていました。その頃、最初に自分達でボーダーだと思って描いていた絵を見たら、全くボーダーには見えなくなっていました。(とても恥ずかしいのですが、下の初期の絵と出来上がった絵を見比べてくださいね)
ブリーダーさんからのご注文をいただいたときは、「いいものが作れたんだね、大変だったけど手を抜かずに作って良かったね!」とスタッフ一同大感激でした。
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(※1)形を把握する前の恥ずかし〜いボーダー (※2)仕上がったボーダー
今後も半年にひとつずつかも知れませんが、『らしさ』にこだわって徐々に犬種を増やしていきたいと思っています。
私達は商品を作り出す時、いかに『その犬種っぽさ』を絵の中に取り込むかを大事にしています。犬種っぽさとはその犬の本質とも言えるのではないかと思うからです。
ですので、私達にとって、それぞれの犬種のオーナーさんの言葉はとても貴重でありがたいものです。『この犬種はどういうポーズが特徴的』、『どういうしぐさが飼い主心をくすぐる』などのご意見、また、関東近郊の方々で犬の集まりに観察しに行ってもいい場合などありましたら、情報をお寄せいただけると嬉しいです。
次はミニチュアシュナウザー、プードルなどを進めていきたいと思っています。どうか、皆様のご協力をお願いいたします。最後に、途中で嫌になったこともあったでしょうに、最後まで辛抱強くおつきあいくださったMさん、わんちゃんにいろんなポーズをさせて見せて下さった方々及びそのわんちゃんに、とてもとても感謝しています。